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抗血栓薬(血をサラサラにする薬)や痛み止め(NSAIDs)を飲んでいる方へ


胃を守るお薬、きちんと使っていますか?
抗血栓薬(血をサラサラにする薬)や、痛み止め(NSAIDs)を飲んでいる方は、お薬の影響で胃や十二指腸に負担がかかりやすくなります。お薬の影響で胃炎や潰瘍ができやすいと言われています。

なぜ胃薬が必要なの?

<抗血栓薬のリスク>

  • 血をサラサラにすることで、胃の粘膜にできた小さな傷からでも出血しやすくなります。
  • 特にlow dose aspirin(LDA)と言われるアスピリン(バイアスピリン)などを飲んでいる方は、胃潰瘍や消化管出血のリスクが高まります。その他の抗血栓薬は直接的に潰瘍ができるわけではないものの、胃炎や潰瘍ができると出血しやすい・出血が止まりにくい、という状態になります。

<NSAIDsのリスク>

  • NSAIDsとは、ロキソプロフェン(ロキソニン)やセレコキシブ(セレコックス)などの痛み止め・炎症止めのお薬です。
  • 良く効く良い薬です。しかし胃粘膜を荒れさせる副作用(胃炎・胃潰瘍など)があります。
  • NSAIDsは胃の防御機能を弱める作用があり、長期間の服用で胃炎や胃潰瘍を引き起こすことがあります。
  • アセトアミノフェン(カロナール)は胃に対しては安全、胃薬の併用は通常不要と言われています。

胃を守るお薬の役割

これらの薬を飲んでいる方には、次のような“胃を守る薬“を併用することで、胃のトラブルを予防することができます。
実際の研究やガイドラインでも…
  • LDA(アスピリン)やNSAIDsの内服者は、根拠のある胃薬(PPI/P-CAB)などの併用により、胃潰瘍や消化管出血のリスクを有意に減らすことが確認されています。
  • 日本消化器病学会のガイドラインでも、「出血リスクのある患者には、予防的にPPIなどを併用すべき」とされています。
胃の症状がなくても、予防が必要
「今は胃が痛くないから大丈夫」と思っていても、自覚症状が出る前に出血や潰瘍が進行していることもあります。
特に高齢者や過去に胃潰瘍を起こしたことのある方、ピロリ菌がいる方は注意が必要です。

抗血栓薬(LDAなど)・NSAIDs(痛み止め)を飲んでいる方へ

潰瘍を防ぐための「胃薬」、いろいろあるけど…。胃を守る薬にも、“evidence(根拠・証拠)がある薬・ない薬”があります!

そもそも、世の中で胃薬と言われている薬は市販薬も含めたくさんあります。
しかし、実はすべての胃薬に“NSAIDs潰瘍を防ぐ”という明確なevidenceがあるわけではありません。

<潰瘍予防のEvidenceに基づいた方法>

ピロリ菌除菌治療

  • ピロリ菌が陽性の場合は、NSAIDsやLDAを内服開始する前に除菌治療をすると潰瘍予防に有効。
  • 内服開始後の場合は、除菌治療よりもPPI/P-CAB内服継続の方が潰瘍予防に有効。
  • ピロリ菌が陽性だと潰瘍発症率が約20倍、NSAIDs使用があると潰瘍発症率が約20倍、ピロリ菌陽性でNSAIDs使用があると潰瘍発症率が約60倍と言われています。
→ピロリ菌陰性かつNSAIDs使用なしの方の潰瘍発症はかなり少ないということです。

薬剤治療(evidenceあり)

1. PPI(プロトンポンプ阻害薬)/P-CAB(カリウムイオン競合酸ブロッカー)
  • パリエット・タケプロン・ネキシウム・タケキャブなど。
  • 最もevidenceが強い。
  • NSAIDs・LDAいずれに対しても、胃・十二指腸潰瘍の予防効果が明確。
  • 複数の研究で有効性が示されている。

2.  プロスタグランジン製剤
  • サイトテックなど。
  • NSAIDs潰瘍予防効果あり(特に小腸にも効果あり)。
  • ただし下痢などの副作用が多く、1日4回投与、長期継続が難しいケースも。
  • 海外ではよく使用されている。

3.  H2RA(高用量)
  • ガスター・ザンタックなど
  • 通常量では不十分。高用量であれば潰瘍予防に有効。
  • 例:ガスター80mg/日(分2)など、ただし日本では認められていない高容量のため処方不可(日本では40mg/dayまで)。つまり、適正量ではevidenceなし。

薬剤治療(evidenceなし)

1. H2RA(通常量)
  • ガスター・ザンタックなど
  • 上記のとおり。

2. 胃粘膜保護薬
  • ムコスタ・セルベックスなど
  • 粘膜保護とされるが潰瘍予防のevidenceなし。PPI/P-CABの代用にはならない。
  • ロキソニン+ムコスタ1日3回、という処方よく見かけます、ご注意を!!。

<まとめ>

  • NSAIDs内服時の潰瘍予防には、PPI/P-CABがevidenceに基づく第一選択です。
  • H2RA(ガスターなど)単独では不十分、特に高リスク患者には推奨されません。
  • H2RA(ガスターなど)は「PPI/P-CABが使えない時の代替」としての立ち位置に変わりつつあります。
  • ピロリ菌陽性の場合は、NSAIDsやLDA内服前の除菌治療が推奨。

内服頻度・リスクによる潰瘍予防の必要性

① NSAIDs・LDAの常用者(毎日内服)

→ 原則PPIによる予防が必要

<高リスク患者(以下のいずれかが該当)>特に注意が必要です。
  • 高齢者(≧65歳)
  • 消化性潰瘍の既往・ピロリ菌陽性者
  • 他の消化管障害の既往
  • 抗血小板薬・抗凝固薬との併用
  • ステロイド、ビスホスホネート(骨粗鬆症薬)の併用者
  • 高用量NSAIDs使用
→ PPI/P-CABでの予防が強く推奨(Grade A)

② NSAIDs・LDAの頓用(必要時使用)

  • 頻度が少ない(週1未満など)場合、原則予防は不要。
  • ただし、上記の高リスク患者であれば、頓用でも予防を考慮(処方医と相談)。

③COX-2選択的阻害薬(胃に負担の少ないNSAIDs、セレコックス・モービック)の使用

  • 通常のNSAIDsと比較し潰瘍や出血のリスクが低下すると言われています。
  • 低リスクの方は胃薬の併用は不要と言われています。高リスクの方は併用推奨です。

よくある質問
日本消化器病学会「NSAID・低用量アスピリン潰瘍の診療ガイドライン 2020」参照

Q:NSAIDsの坐薬なら胃潰瘍の予防は不要ですか?

  • 坐薬でも潰瘍になります。坐薬と内服薬でリスクに変わりはありません。
  • そもそもNSAIDsが胃の中で転がって胃にダメージを与えているわけではありません。吸収され胃の粘膜を守るプロスタグランジンという物質を減らす作用を起こし胃の粘膜が弱くなり、その状態で胃酸の影響を受けて潰瘍が起こりやすくなります。
  • 坐薬を定期的に使用する場合も内服薬の時と同様に胃薬による潰瘍予防が必要です。

Q:NSAIDsの塗り薬や貼り薬(湿布など)でも胃潰瘍になりますか?

  • 経皮吸収でもNSAIDsはゆっくり皮膚から吸収され血中に入ります、血中濃度は低いですが測定すると検出されるレベルです。
  • 複数部位への同時使用・高頻度使用でリスク上昇。特に、高齢者・腎機能障害・潰瘍歴のある方で潰瘍の報告例があります。
  • LDA(アスピリンなど)、ステロイド、他のNSAIDsを使用している場合リスクが増加します。
→つまり、内服していなくてもリスクがゼロと言えない場合があります。ただし、高リスクの方以外は通常予防は不要です。

以下、ガイドラインから抜粋、気になる方は参照ください

  • 抗血小板薬2剤併用時(DAPT)はPPI/P-CAB併用を推奨

  • ワーファリン・DOAC(抗凝固薬)内服者は、抗血栓剤またはNSAIDs使用例ではPPI・P-CAB併用を推奨

  • 除菌治療後に逆流性食道炎の出現、増悪することがある

  • 潰瘍リスクは、NSAIDs(-)かつピロリ(-)を1とすると、ピロリ(+)で18.1倍、NSAIDs(+)で19.4倍、NSAIDs(+)かつピロリ(+)で61.1倍。

  • 1週間以上のNSAIDs投与でevidenceのある胃薬の併用がされなかった場合、胃潰瘍の発生率は14.2%、十二指腸潰瘍が5.4%。LDAを3ヶ月投与された場合は、胃十二指腸潰瘍が10.7%に認められた。

  • 潰瘍発生リスクはLDA・NSAIDsともに内服開始3ヶ月以内が高い。

  • NSAIDs内服中の潰瘍は痛み止めとしての作用があるため、半数程度に痛みの自覚を認めず初発症状が出血であることも多い。潰瘍は多発していることも多い。

  • NSAIDs潰瘍のリスク因子は、潰瘍の既往・高容量NSAIDsやNSAIDsの併用・抗凝固薬併用・抗血小板薬併用・ステロイド併用・ビスホスホネート併用・高齢者・重篤な合併症を要するもの、が主なリスク因子。

  • NSAIDsの投与量に依存し潰瘍発生率は上昇する。

  • NSAIDsの経口投与と坐薬で潰瘍発生率に差はない。

  • NSAIDs潰瘍発生予防にCOX-2選択的阻害剤(胃の負担の少ないNSAIDs)の使用を推奨する。→セレコックスやモービックなど、主に整形外科的な痛みで使用中の方。

当院では

患者様のお薬の内容やリスクに応じて、evidenceに基づいた処方を行っています。
長期間のNSAIDs服用が必要な方も、安心してご相談ください。

ガイドライン参考
•日本消化器病学会「NSAID・低用量アスピリン潰瘍の診療ガイドライン 2020」